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Culture & Art Report from INDONESIA


by midoriart

ジョグジャ長老たちによる地震の理由

 昨日と今日は早朝に体感できる地震がある。地元新聞によれば、これは先週土曜の地震の余震ではなく、ムラピ火山が活発化してきたことによるらしい。それにしても今年のジョグジャはどうしちゃったんだろう。南は地震で荒れ放題、今度は北のムラピで何かあるというのか。毎日救援パックの報告だけだと同じ話の繰り返しになってしまうので、今日は少し今回の地震に関する市民の反応について書きたい(デリバリーはサボってないから大丈夫、安心してくださ~い)。
 人口46万人のジョグジャカルタには今でもスルタン(王様)が実在している。今のスルタンはⅩ世、Ⅸ世はジャワ人の信じる神通力の非常に強い人だったそうで、亡くなった時には王宮の上空が真っ暗になるほどのカラスの大群がぐるぐる回り、市民を怖がらせたという。それに比べてⅨ世は王宮の民主化を進めたり、ビジネスでガンバッちゃったりしている。まぁこれも時代の流れといえばそうなのかもしれないが、悠久の歴史をもつジョグジャ王宮の威厳に関わることもあまり気に留めない行動は、Ⅸ世に仕えていた長老からもあまり喜ばれていない。
 私はジョグジャの国立芸術大学を卒業後、スルタンのお妃が会長をしている「国立クラフト協会」のアドバイザーとして1年間手伝っていたことがあり、Ⅹ世とは何度か会ったことがあるけれど、うーん、王様としての威厳ってよりは、普通の高い役職のオッチャンって感じだった。ちょっと演歌歌手っぽい身のこなしだったり。

 さて、ジョグジャは国内でも有名な観光地で、週末はもちろんイスラムの長期休暇などには多くのローカルツーリストで溢れる。交通量も年々増えている。そんな街に、スルタンは昨年からいくつかの大型百貨店を建設し始めた。王様一人の名義ではないけど、土地は王宮名義。中でもジョグジャで最も古いホテルを閉鎖し、王宮に代々伝わる神聖なヤグラを移動させてまで強引に作ったアンバルクモ・プラザなんてのもついこの4月にオープンした。さらに私でも驚いたけれど、王宮の北広場に地下を作り、そこを大型駐車場にする案まで出たときは、多くの老人たちを怒らせた(老人に限らずジョグジャっ子なら、まだ王宮周辺の神聖さを信じてるし)。
 で、なぜさっきからスルタンの話をしてるかというと、実は今回の地震が彼のせいだという話があるからだ。今回の地震はジョグジャから25キロ南の海中17キロ。ジョグジャの人たちにとって、この南海はニャイ・ロロ・キドゥルの棲む場所なのだ。ロロ・キドゥルはマタラム王国(現在のジョグジャ王宮のもと)を繁栄に導いた王国の娘で、ジョグジャのスルタンは代々、このロロ・キドゥルを正妻とすることになっている。もちろんこの王女は実在するわけなく、王宮に伝わるジャワ哲学からしたら「王たるもの自然と一つになることが第一」ってことなんだそうだ。
 Ⅸ世までは一夫多妻だった。何人もいる妻たちはすべて第二夫人であり、正妻はロロ・キドゥルと相場が決まっていた。なのにⅩ世はなんでもかんでもモダニズムを強調し、妻も一人しか迎えず、ロロ・キドゥル伝説も相手にせず、
「私の妻はラトゥ・マス一人だけ」
なんて言ってたもんだから、もともと長老たちは内心ムカついていたらしい。
 で、そんなモダンなⅩ世はさらにジョグジャをモダンな街にするため多くの大型百貨展をボコボコ建設しちゃったわけだ。そして今回の地震。南海のロロ・キドゥルの怒りから地は揺れ、アンバルクモ・プラザは開店1ヶ月経つか経たないかで大損傷。おそらく丸ごと解体するしかない状態まで被災している。マリオボロ・モールも、サフィール・ホテルも、被災のひどい大型建造物は建物の名義あるいは土地の名義に必ずスルタンが関わっているという。

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 ま、これを信じるかどうかは別として、近代化と自然ってものがどう折り合っていくのかという問題提示にはなったんだろうな、今回の地震。みんながムラピ火山(北部)の噴火に気をとられている矢先に南からドカンと揺れたからなー、驚いた、本当に。でも、「現代の人間が自然に逆らったこといっぱいしてますよ、危険ですよー」ってことを神さまなのか自然なのかが我々に警告したかったとしたら、なんでジョグジャなの?それもなんで一番貧しい地域の人なの?それが私には腑に落ちんわ。ロロ・キドゥル王女もⅨ世にムカついたんだったら、地震当日マランでゴルフしてたスルタンを直撃すりゃいいじゃん。ま、そんなことをジョグジャの年寄りたちは地震からこっち、結構マジメに話しているのだった。
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 で、今日もまた救済デリバリー。今日は10パックを一度に配れるよう、ジョグジャ在住の日本人Mさんに助けてもらった。多くのメンバーの皆さんから、
「毎日毎日場所や確保した物資の報告してたら大変だから、そこまでしなくていいよ」
と言っていただいたので、届ける物資の内容は今後はいちいち報告しないけど、基本的にはこんな感じ。後は臨機応変に何が欲しいか、足りてないか、その状況状況でこっちのもってる物資を配っていこうと思う。
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 今日訪ねた10町内それぞれの皆さん。家がしっかり建ってるように見えるかもしれないけど、中はもうすごいことになってるから。今日なんか一人が電気もない薄暗~い瓦礫だらけの建物に私を案内しようとしたけれど、遠慮した。ここで余震がちょっとでもきたら私が危ない。救援デリバリーしててこっちが救援されてちゃあまりにショボい。町内の名前とかはちゃんと控えているけど、もう毎日書かないですよー。とにかく今日は10パック終わりました~。ブログに自分の姿を出すのもなー・・・って思う反面、私が一緒にいた方が、ちゃんとホントにこの救援パックが届いてるって証拠になると思って、だから一緒に写ってまーす。別に出たがりーなわけじゃないんで。

あとね、今日はN翁がバリで大奮闘、私一人ではなかなか時間が取れない物資調達&パック詰めをあっという間にやってくださった。ところがバリ人のことだからねー、配達屋がタラタラしてて、こっちに届くのは来週になるとか。それは翁のせいじゃないですよ。ブランケット探しに協力してくださったOKAさんもありがとうございました。

 で、今日もそろそろ振り込み確認をしなければ・・・。
ハヤシタカミさん、コヤマミツノブさん、松永瑞穂さん、カワカミマコトさん、コタキダイゴさん、オカモトミドリさん、タケモトミツタカさん、フナハシヒトシさん、サタケヒロキさん、株DHM、ミノリカワセイジロウさん、三井知行さん(大阪)、フナコシヒロミさん、エノモトユカさん、トモタリミカコさん、フェルケルスズエさん、小林リエさん(バリ)、鬼頭直美さん(名古屋)、コイズミナオコさん、青山丈彦さん(読売新聞)、後藤章子さん(今は名古屋か?)、タニヤマアツコさん、キド工務店、大岩洋子叔母ちゃん(知多)、マツオカキョウコさん、ヤマザキユキさん、モリクララさん、マツモトミワさん、長山二十四さん(東京)、エサキカヨさん(名古屋)、アルカディアインターナショナル、前川知美(東京だったよね?)、タケダアキコさん、玉谷聡(広島)、メナード美術館(小牧)、五島朋子さん(鳥取大学地域学部附属芸術文化センター)、ヨシダナオコさん、キレ爺&かとみき&リョウタロウ(東京)、ナガナワトシコさん、鎌手満里子(名古屋)、桑原房子さん(名古屋)、加藤祐三子さん、バリ在住の西沢朋子さん(ペジェン)、吉岡光世さん(ウブッ)
 そして今日の合計は、(もうビビらないぞ。腹すわってきたからな)429,000円、42パック追加~。

 唐突に実家の母の話。彼女はやたらと私のことを心配している。さすが親なので、見た目に強そうな私が内心かなり気が小さいこと知ってるから、今回のような大役を引き受けてしまった私が毎日緊張してろくにご飯も食べてないんじゃないかと気になるらしい。何度私が「忙しいけど大丈夫」って言っても、確かに目に見えないところにいるからね。なので、今日この場を借りて、なんで私がそれでもこのデリバリー屋を投げ出さずにやってるのか、何が私を支えてくれてるのかをこの場を借りて母に伝えたい。 
 母よ、以下の言葉はすべて、今回義援金を送ってきてくれた人たちの言葉だよ。こうした人が何人もいる限り、やっぱり私は続けるしかないんだなー、N翁いわく私はムッチャ男気があるらしいからね。皆さんの言葉にウルっとします、励まされます。メールくださった方にはここで勝手に引用することを事後報告。

「みどりさん、本当にたいへんな使命を授かりましたね、誰にでもできることではありませんよ、選ばれてしまいましたね。応援していますので頑張ってくださいね」(Sさん)
「廣田さんの行動力に大変感銘しました。大変なことを引き受けてくださってありがとうございます。遠い日本から応援しております。がんばってください」(MNさん)
「勇気ある決断にエールを送ります。現地で活動を支えてくれる人がいることを祈ります」(SSさん)
「毎日ニュースを見て、なにかしたいなぁと思いつつそのまま日常に流されてしまっていた私。緑さんの行動力は本当にすばらしいと思いました。記事を読んですぐ、振込に行きました」(YSさん)
「募金するときにいつも気になるのは、これが本当に必要な方に届くのだろうかということです。廣田さまのブログを拝見し、ぜひ力になれればと思いました」(KKさん)
「始めた限りは責任を取らなくちゃいけない。それを承知の上で、活動を始められた勇気に感謝!!状況は刻々と変わり、救援の形もいろいろだと思いますが、緑さんが良いと思われたことを、緑さんのペースで、やって行けば良いんじゃないでしょうか。政府でも、マスコミでも、NPOでもない"緑さん"の目を信じて、皆さん、救援活動に賛同されたんだと思います。一人でも多くの方の励ましになりますように!緑さんはじめ、みんなの気持ちが伝わりますように!心から、応援しています」(KKさん)
「ほんとにたいへんだと思いますが、できる範囲で結構ですのでほんとうに援助の必要な人に届けてあげてください。くれぐれも危険とご無理のないようにしてくださいね。一日も早くみんなが安心して暮らせますように」(MOさん)
「今回の地震へのお見舞いをしたいと考えつつも、汚職で名高い国ゆえ、最善の方法を考えていた所です。広田さんの今のご苦労は日本の震災救助よりはるかに大変な事とお察し申し上げます。私は送金以外のお手伝いは出来なく申し訳ない気持ちですが、日本より広田さんのご活躍とご無事を心より祈っております。」(SFさん)
「現地から遠くにいる私にも手助けができるチャンスを作って下さったことに感謝します。」(AYさん)
「送金することで、本当は、廣田さんに一方的に肉体的・精神的負担を増やしてしまっていると思うのですが、いつか私が役に立てればと思います。」(AIさん)
「面識もないのに、お言葉に甘えるのも、大変失礼かと思ったのですが・・・少しですが、私にもお手伝いさせていただきたく、そして、またダイレクトな募金?には、大賛成ですので、先ほど入金させていただきました。広田様にこのような場を機会を作っていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。」(THさん)
「廣田さんが自分の生活を全部なげうってやり続けられることではないと理解してますから、無理しないでください。緊急的な状況は想像できますがペース配分も考えて、まずは自分の体調の維持管理をお願いします。 それと、ガソリン代や通信費、他のボランティアの食事代など必要最小限のものは義援金を使っていいと私は考えてます。」(STさん)
「廣田さんのHPを拝見し現地の状況がはっきりと伝わってきました。大変な状況にもかかわらずインドネシアの方々のあたたかな人間性が伝わってきます。廣田さんの自然な姿勢と適切な実践に、心から敬意を表します。」(MTさん)
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 などなど。本当に心に沁みますわ。私の正しいと思った方法で、状況にあった手助けを救援パックのメンバーからの支援金がなくなるまで続けさせていただきます。ただ、みなさんの言葉にもあったように、今後完全な復旧までに2~3年かかるといわれるこの被災地で、その年月ずーっと私がつきあうことはできないので、みなさんの愛は、私にできる最善の形で被災者のために使う方法を思案中。こっちのアイデアはまた後日発表します(多数決でもするかな)。
 で、さっき自衛隊員のIさんから電話があり、明日の空軍関係の業務に同行通訳を頼まれた。だから今日私に浮かんだアイデアは明日、ブラムが引きついでくれることに。どんなアイデアかというと、一日乳に徹するってプロジェクト。ここ数日救援パックをデリバリーしていて感じたのは、みんなの必要とするものには被災状態や他の団体の物資配給状況によって違うということ。かといって一家族一家族の必要なものをそれぞれに揃えてたらいつまで経ったって仕事が終わらない。だから今までの町内に1パック方式を明日は一日休み、「乳オンリー日」とするっ!
 夕方修理から直ってきたスターレットに積めるだけの赤ん坊用粉ミルクと、妊娠中の女性のための栄養たっぷり粉ミルク、オムツを買い込み、妊婦&乳飲み子を見たら渡すという方法。つまり「妊婦&ママ救済DAY」、これはこれで公平な方法と思う。だって、さすがの悪徳町内会長だって、「わたしぃ~、今つわりがひどくて・・・」とは言えないだろう。赤ん坊と見たら渡すって方法だから確実に必要な人に物資が届く。これでできるだけ奥地へ奥地へと一日乳を届けることにする。実は救援パックメンバーにも、自分が今ママしてて乳も出るから、できることならジョグジャに行って私の母乳をあげたい!って人がいたのだ。彼女の気持ちをくんで明日は乳日。ブラムの奮闘を祈る!

追記)
メールや書き込みで、リンクを貼りたいとの連絡や、義援金が集まりすぎるからストップした方がいいかなど、皆様から問い合わせをいただきますが、ぜ~んぶOKです!もうここまできたらドンとこいだっ!毎日ずっとかかりきりにはなれなくとも、皆様の愛は私がすべて引き受けた。ちゃんと被災者に届けます。時間かかっても許してくれるならね。
 
by midoriart | 2006-06-02 23:53 | Jawa Earthquake