Culture & Art Report from INDONESIA


by midoriart

ポンティアナのマフィア商人

 インドネシアで暮らし始めてから、生活の足しにと東京にある通訳翻訳の派遣会社に登録している。インドネシア語翻訳の仕事はめったにないけれど、それでも過去には日本企業がインドネシアで工業用扇風機を売り出した時の使用説明書の翻訳業務などもあった。
 めっきり連絡のなかったこの通訳会社から国際電話がかかったのは私の帰国間近の3月初旬。普段ならメールのやり取りなのに、今回は電話。担当の女性が私に聞く。
「今回パンティアナでの通訳業務なのですが、ご都合いかがでしょうか」
 ポンティアナといきなり言われてもわからない人が多いだろう。これはインドネシアとマレーシア、さらにブルネイ王国があるカリマンタン(ボルネオ)島にある街。

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 これだけ長くインドネシアにいるのに、まだバリ島、ロンボク島、ジャワ島しか知らない私は、仕事でカリマンタンへ行けると聞いて即答でOKの返事をした。早速飛行機を調べるとジョグジャからは1日1便の直行便がある。一日の業務ではあるけれど、夕方のフライトしかないので2泊3日になる。ホテルも確認した。
 カリマンタン、特にポンティアナには特別な憧れがあった。なにせ私の大好きな水木しげるが、現代の世の中にあって今も妖怪が多く棲むのがポンティアナだと言っているからだ。一人ワクワクしながらガイドブックでポンティアナの名物料理など確認していると、友人から電話。用件の後にポンティアナへ外車の売買の通訳業務で行くと話すと、
「えっ?!それって密輸じゃないの?!」
 驚いてむこうに詳しい人に聞くと、確かにこの土地、マレーシアと陸続きで、インドネシアでは多額の税金がかかる高級輸入車をマレーシア経由で購入、密輸してくる場所として有名だということがわかった。日ごろちゃんと新聞も読まないから、こういうときに妖怪でつられてしまう。さらに確認のため、ポンティアナ人と結婚したジョグジャ女性(友人の友人)に電話して、実際のところを聞いてみた。彼女はわざわざ旦那さん(ポンティアナっ子)に代わってくれたので私は直接彼と話をすることができた。
 彼は私にこう話してくれた。
「外車ねー。おそらくポンティアナのマフィアの仕事だね。君が仕事したいなら、身の上は安全だと思うよ。ここのマフィアは警察にも賄賂をしっかりと渡しているから、捕まる心配はないさ」
って、やっぱり密輸なんじゃん・・・
 念のため東京の通訳会社に連絡し、依頼者の身元を聞くと、今回初めての依頼で、大阪の個人からだという。関西のヤーさんか?最初はポンティアナという業務地だけが気に入って、ちゃんと目を通さなかった業務内容を確認してみると、
「現地外車買い付け商談。ポルシェ二台、ジャガー一台を現金にて購入。合わせて現地先方様への連絡もお願いします」
とある。
 それだけ買う現金もって入ってくる日本人と一緒にマフィアの外車売りに会うなんて、まるで映画の世界だ。怖すぎる。通訳会社もさすがに各国の内情とか、そこまで調べないのだろうな。ここで私がマフィアに巻き込まれて何かあっても、そこまで責任も持ってくれないんだろうな・・・。最終的には、依頼者と電話で直接話してみて、やっぱり何か危険な空気を感じたので気持ちは決まった。
 ポンティアナの名物アロエ氷も、水木先生推薦の妖怪の里にも後ろ髪引かれる思いではあったけれど、ここまで危ない橋を渡ることもなく、私は通訳会社に現地の事情を説明して丁重に断った。その後、本当なら私がポンティアナへ行く数日前のTVニュース。
「ジャカルタの金持ちの家に強盗。女中が殺害される。現場には家主はいなかった。車庫からはポルシェとジャガーが盗まれていた」
 まさかまさか、これが私の依頼主が買うはずの高級車だったのか?!
真相は結局わからずじまいである。そして私は今も無事に生きている。
by midoriart | 2006-03-20 05:07 | Culture