Culture & Art Report from INDONESIA


by midoriart

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バリ・ビエンナーレ

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今月号最初の話題はジャカルタで開催されたCPビエンナーレでの「事件」だった。今年のインドネシアはビエンナーレ(2年毎の大型展覧会)ラッシュで、ジョグジャカルタでもバリでも開催が予定されている。ジャカルタでも開催予定だったのだが、あまりに多いために来年に延期した。それが得策というものだろう。、すべてが同じ年に集中したらアーティストと展覧会という需要と供給のバランスがあっという間に壊れるだろう。
 私が招待を受けたのは今回が第一回目となるバリ・ビエンナーレ。初めてとあっていろいろな不安もあるけれど(ましてや今回のような主催者の失態を見てしまうと)、私にとってバリは第2の故郷、ここで久しぶりに作品を発表できるというのは嬉しいことだ。  今ジョグジャで制作中の新作は以前石膏で作ったブロックの作品の延長で木製のブロック140個を使用する。今はこのブロック作りに忙しい。前の石膏ブロックよりも軽いので腰にはやさしい。次回は完成した作品を皆様に紹介できるよう、明日も制作に精進しなければ!
by midoriart | 2005-10-30 00:40 | Art

断食月

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イスラム暦は1年が354日の陰暦。イスラム暦の9月には1ヶ月の断食をする。インドネシア滞在が長い私ではあるけれど、99%がヒンドゥー教徒であるバリ島に10年近く暮らしていたために、イスラム教とはあまり馴染みがない。今年のプアサ(断食月)は私がまだインドネシアに戻っていない時期に始まっていた。99年インドネシア政府の留学生としてジョグジャ芸大に籍を置いていた年に初めてプアサをこの土地で経験し、「小学生のガキでもできることが大人の私にできないわけがない」と試してみたことがあったけれど、それが私の断食の最初で最後。

イスラム教にほとんど縁のない日本人からすると「断食」というのはいかにも荒修行的なイメージがあるが、実際に見てみるとそうでもない。彼らが飲食を絶つのは日の出から日の入りまで。例えば大学講師をしている私の友人を例にしよう。夜、寝ているところから始めようか。そして日の出前。午前4時半くらいだろうか。ここで一度起きて食べれるだけ食べておく。眠気を抑えてとりあえず何でもいいから食べておく。水を飲む。歯を磨く(日が昇ってしまったら口をゆすぐのも厳密にはダメ)。喫煙者はここで朝最後の一服も忘れない。日が昇ったことを知らせるサイレンが鳴る。再び寝床へ・・・。 午前7時起床、大学へ。いつもどおりの講義。でも学生達も全体に眠そう。声を出すのも面倒くさい。喉が渇く。私自身の経験からして、日没の近づく午後4時辺りからがキツい。早く時間が過ぎてくれないかと時計ばかりが気になる。やることがないのなら寝ていたほうがいいと思うくらい。あるいは、もうすぐ日が沈んだら食べれるように軽食を買いに出る。断食の間は断食明けに好まれるフルーパンチ、サツマイモを煮てココナツミルクに浮かべたものなどが夕方から道端でたくさん売られる。

頭の中が食べることでいっぱいになっている頃、ようやく近くのイスラム寺院から断食明けのサイレンが聞こえる。断食明けは日没で決まるので、東西に長いインドネシアでは地域ごとに断食明けの時間が微妙に違う。  断食明けにはいきなりヘビーなものを食べずに、紅茶で喉を潤し、上記のようなオヤツ風のものをまず食べるのが基本。そしてここからが至福のとき。しっかり食べて早めに寝る。明け方にはまた起きて太陽が上る前に食べためなければならないのだから。  生活リズムが太陽と同じ人間にとっては、確かに断食はキツい。しかし以前私が共同生活をしていたときの同居人は、生活が夜型で朝まで仕事して昼まで寝ていた。彼にしてみれば断食月の間、飲食を我慢するのはわずかな時間であって断食の苦しみなど味わっていないも同様だった。  断食中というのは様々な誘惑に打ち勝って、ちゃんと断食をまっとうした人間に対してより多くの神の恵みがあるという。以前は断食していないと周囲に罪悪感を感じたものだが、今年は断食中の友人にたくさんの恵みがあるように、あえて彼らの前で構わず飲食して、彼らが私のこの誘惑に打ち勝ってたくさんの恵みを受けるよう「協力」をしている。今年の断食は11月2日に終わり長期休暇に入る。
by midoriart | 2005-10-26 21:34 | Culture

ポルノなアート

インドネシアでは2003年に国内初の大型美術展CPビエンナーレが始まった。過去にジョグジャカルタ・タイムズ13号にて報告した展覧会だ。第1回には私もアーティストとして出品している。2年を経て今年8月初旬、第2回CPビエンナーレがジャカルタで始まり、オープニングに出席した。その後すぐ、私は愛知万博の関係で帰国したのだが、展覧会は9月末まで開催されていた。
 日本にいる間から、私のメーリング・リストには気になる内容のメールが届いていた。それはCPビエンナーレ出品作家の一人、アグス・スワゲが写真家ダルウィス・トゥリアディとコラボレーション(共同制作)して出品したインスタレーション作品が大きく問題になっているという話。彼はジョグジャカルタ在住で、私の一番親しいアーティストの一人だ。まず彼が今回出品した作品を説明しよう。 会場の一角が白い壁で区切られ、一つの独立した空間が作られ、中は照明が落とされている。その壁いっぱいにヌード(といっても大事なところはちゃんと隠してある)の男女が様々なポーズで登場しているというもので、私達日本人からしたらその表現には何も奇抜なものはない。しかしこれがインドネシアでは大問題になっているという。気にはなっていても状況を知るには現場にいるのが一番、と私は10月9日にジョグジャカルタに戻るとすぐにアーティストの友人にこのゴシップについて聞いた(それまでのメーリングリストからの情報で、作家本人はかなり傷ついているとあったので、本人に連絡するのは避けた)。数人の友人から得た詳細はこうだった。
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このモデルの男性、実は今売れっ子の男優アンジャスマラ。実は私もファンの一人だ。女性は売り出し中のグラビアモデル。この男優がいけなかった・・・。インドネシアにも「3時のあなた」的なワイド番組があって、毎日スターのゴシッップ・ネタを放送している。CPビエンナーレが始まって5日目、アンジャスマラのヌード姿もこの番組で取り上げられたのだった。ファンたちはおそらく喜んで展覧会場へ行ったことだろう。けれどこれに過剰反応したのがジャカルタにあるイスラム団体だった。
 「有名スターがポルノまがいなポーズ、けしからん」と彼を厳しく非難した。最初はアンジャスマラも堂々と  
「僕はアートに貢献しただけ。僕のしたことはポルノではなくアートだ」
と頑張っていたけれど、もともと彼は美術家ではなく大衆のアイドル、インドネシア大衆にポルノだと言われた日には、非を認めて謝っておいたほうが後々のイメージ回復にも得策だ。ということでチャッカリ謝ってしまった。これで調子にのったイスラム団体はこの作品を即刻取り払うよう要求。ここからの主催者側の対応が悪かった。  私は作家がどういう経緯でこの作品を作ったかよく知っているが、キュレーターも主催者側も作品内容に同意の上で展示しているのだから、出品作品に対するすべての責任はキュレーターを含む主催者側にあるべきだ。なのに彼らはこの団体を恐れて作家に知らせもせずに作品を閉鎖したのだった。広い展覧会場を仕切って作られたアグス・スワゲの作品はちょうど2つの入り口があったのだが、これが見事に「閉められ」、まるでその壁の向こうには何もありません、という格好になったのだった。

 実はこのイスラム団体、同じイスラム教徒たちが「イスラム教の名を利用したヤクザ」と評するちょっと危険な団体で、悪く言えば「ナンクセ」つけるのが仕事。かわいそうにアグスも悪い輩に目をつけられてしまったもんだ。考えてみればアンジャスマラというのが悪かった。売れた男優を使ったばかりに、それがワイドショーから一般大衆に知れるところとなり、今回のような大事に発展した。だってモデルの女性は何も批判されていないのだから。しかし、これが大事になるインドネシアはまだまだアートも発展途上だなとつくづく思う。 作家本人にはこのイスラム団体から脅迫電話までかかる始末(だから、これってやっぱり宗教団体じゃなくヤーサンなんだろう)、今後は裁判沙汰にまでなるかもしれないという話だ。
 今では、作家一人を守れない、自分の作った展覧会に責任も持てないということで、アーティストの間ではCPビエンナーレを企画したキュレーターへ非難の目が向いている。インドネシア美術を牛耳ってきた重鎮のキュレーター生命もこれで終わりだという人も少なくない。ビエンナーレには重鎮以下、3名の副キュレーターがいたのに、アグスの作品閉鎖については、残りのキュレーターは何も知らされていなかったということで、重鎮はついにキュレーター仲間からも信頼を失ってしまった。

 インドネシアのアート界が一般大衆を巻き込んで騒々しくなってきた中で、私はといえば、それとはまったく関係なくアンジャスマラの肉体の美しさにあらためて惚れ惚れしている。展覧会初日に出向いて、自らアグス・スワゲのこの作品を撮影しておいてよかったなー、いつかはプレミアムものかもなー、とも思うのだった。
by midoriart | 2005-10-02 23:41 | Art