Culture & Art Report from INDONESIA


by midoriart

3月10日◆ジョグジャのアート巡り

b0090333_17253435.jpg 今週後半は展覧会のオープニングが続いた。
 6日には、インドネシアの有名紙コンパスが運営するブンタラ・ブダヤ(Bentara Budaya)で『T-shirt from March』が始まった。これはジョグジャの若手アーティストをサポートする意味も含め、自分のデザインしたTシャツが売れると売り上げの20%がアーティストのものになり、追加でプリント(最初は20枚限定)する場合には、著作権の契約を更新するというもの。つまり、このコピーライト無法の国で、若きアーティストに著作権問題、アーティストとして最低の収入を得る方法の一つともなりうる「デザイン」という領域を知ってもらうという意味をもった展覧会なのだ。


b0090333_1726520.jpg  これを企画したのは夫婦で別のアート・スペースを運営するアグンとネニ。夫はアーティストで妻は喫茶店経営者。アートでは食べていけないことを夫を見てよくわかっているネニは、実はジョグジャの老舗バティック屋のお嬢様。ずいぶん昔からレストラン経営をして、そこにアート・スペースも併設し、若手アーティストをサポートしている。


b0090333_17262765.jpg  9日にはジョグジャのアーティスト、ウゴ・ウントロの個展がジョグジャカルタ特別州立タマン・ブダヤ(Taman Budaya Yogyakarta)で始まった。ウゴは「ギラ(gila=インドネシア語のクレイジー)」で有名なアーティストで、昔っから、それこそ私がジョグジャに移る前、バリで暮らしている時からこの名を聞いていた。薬物のやり過ぎで顔中が月面のクレーター状態。色も黒いから怖い。外人姉ちゃんが大好きで、今までにどれだけ奥さん(インドネシア人)を泣かせてきたかしれない(私からすれば、ウゴにひっかかる外人姉ちゃんの気が知れんが・・・)。



数年前、在インドネシア日本大使館の依頼で、日本インドネシア交流美術展を企画したことがある。私はそのとき参加作家の一人に彼を選び、折り紙をテーマにした平面作品3点を紹介した。もう一人のキュレイターと彼のスタジオを訪ねたら、いつもの彼とはまったく違って、対人恐怖症のようで話もろくにできない。不思議に思って聞いたら、何も呑んでなかったからだった。普段外で会う彼は、人と会うからってことで、かなりのアルコールを引っかけてから出てきてることがそのときにわかった。


b0090333_1727775.jpg  彼のクレイジーぶりは普段の暮らしからもわかる。馬を3頭飼ってて、街の中まで馬でやってくる。そりゃジョグジャは今でも馬車が走ってる古都だけど、一般ピープルでそんなヤツはおらん。つい最近はベロベロに酔って自宅へ帰る途中、子供を跳ねそうになり(馬の操り方を知らんから)、村の衆に注意されたところを逆ギレしたために、そこの村の衆全員が出てきて袋叩きにされたらしい。
「ウゴの顔、殴られてボッコボコらしい」
という噂を聞いたけれど、彼の面相では殴られたのか殴られてないのかもよくわからない。身体もキャンバス代わりなのか、刺青でいっぱいで、どこが本当の肌の色かもわからないのだから。
(作品は『The Poem of Blood』)


 さて、その「ギラ(クレイジー)」なウゴ、普段はジョグジャカルタ・ビエンナーレ(隔年)、ジョグジャカルタ・アート・フェスティバル(毎年)で使われるジョグジャでも広い展示スペースをもつタマン・ブダヤで個展を開いた。これはジョグジャではかなり「ギラ」な行動と言える。日本では借画廊で発表するのも若手作家の一つの方法だろうが、ジョグジャではアーティストが自ら金を出してまで発表しようなんてことはまず考えない。それにレンタルギャラリーというものがまずない。
 ジョグジャカルタ特別州立タマン・ブダヤは民間の行事にもスペースをレンタルしているので、借りることは可能だ。それでも高すぎて、普通は個人で借りようなんて誰も考えない。それをウゴは借りた!そして立派なカラーのカタログまで作った!
 ざっと見積もっても、彼が今回会場を借りた費用だけで、私の今住んでる家の1年の家賃を上回っている。いや2年分に近い。さらにさらに、彼の今回の一連作品はインドネシアの美術市場で売れる作品ではない。これは、「アート作品=金持ちな華僑の投資」のインドネシア・アート界にあって、まさにクレイジーなことだと思う。
 やってくれた、ウゴ。「売り絵、売り絵・・・」と、売れ路線の平面を作ることに躍起になってるジョグジャの若手たちに、彼のこういう姿勢を見せることはとってもいい刺激になっただろう。


b0090333_1728227.jpg おっと作品に触れるのを忘れていた。個展のタイトルは『Poem of Blood』、馬の屠殺場から皮を買い、干して焼印を入れたり、羽根をつけたり、足だけを使ってブーツをつくったりという馬のシリーズ。作品には、この屠殺の様子をビデオにしたものもあり、ホラー好きの私も、ちょっと怖くて見ていられなかった。
 ジョグジャでは、オープニングの食事狙いでやってくる若い貧乏アーティストもたくさんいる。でも、今回はそんな血だらけになって死んでいく馬のビデオを見た後で、馬肉の料理が出てるもんだから、皆さん今ひとつ食がすすんでないようだった。
(本物の羽根をつけた白馬のタイトルは『It Used to be an Angel』)


b0090333_17292138.jpg オープニングで会った友達から聞けば、同じ時間、KKFではHIP HOPのイベントをやってるという。KKFというのは先出のTシャツ展を企画したアグンとネニ夫婦が運営しているレストランとアート・スペースのこと。2年前に彼らはクダイ・クブン(Kedai Kebun)というレストラン&ギャラリーを大々的に改装し、演劇やパフォーマンス、映画上映、コンサートなどに対応できるスペース(2階)とギャラリー(1階)、半オープンエアーなレストラン・スペースをオープンさせたのだ。このときに今までのクダイ・クブンが、クダイ・クブン・フォーラム(KKF)に変わった。

b0090333_17293914.jpg 最近踊って汗を流してなかったので、ウゴの展覧会場で出会わせた友達数人とKKFへ流れた。着いたらもう、2階のスペースは若者でいっぱい。すでに午後9時だというのに、ズンチャカすごい音響。見ればちょうどのタイミングで、私の親しい仲間がDJになっていたので、一番前まで押し入って踊ってきた。ふと冷静になって周囲を見回すと、さっきのウゴの展覧会とはまったく別の客層。高校生くらいが中心か・・・。ヤバい・・・父兄参観じゃないんだから、親の世代が一番前で一番盛り上がってどうする・・・。
 そんなことに気づく前にしっかり踊れたので、友達に挨拶して、親はとっととKKFを後にした。
by midoriart | 2007-03-10 17:24 | Art