Culture & Art Report from INDONESIA


by midoriart

ポルノなアート

インドネシアでは2003年に国内初の大型美術展CPビエンナーレが始まった。過去にジョグジャカルタ・タイムズ13号にて報告した展覧会だ。第1回には私もアーティストとして出品している。2年を経て今年8月初旬、第2回CPビエンナーレがジャカルタで始まり、オープニングに出席した。その後すぐ、私は愛知万博の関係で帰国したのだが、展覧会は9月末まで開催されていた。
 日本にいる間から、私のメーリング・リストには気になる内容のメールが届いていた。それはCPビエンナーレ出品作家の一人、アグス・スワゲが写真家ダルウィス・トゥリアディとコラボレーション(共同制作)して出品したインスタレーション作品が大きく問題になっているという話。彼はジョグジャカルタ在住で、私の一番親しいアーティストの一人だ。まず彼が今回出品した作品を説明しよう。 会場の一角が白い壁で区切られ、一つの独立した空間が作られ、中は照明が落とされている。その壁いっぱいにヌード(といっても大事なところはちゃんと隠してある)の男女が様々なポーズで登場しているというもので、私達日本人からしたらその表現には何も奇抜なものはない。しかしこれがインドネシアでは大問題になっているという。気にはなっていても状況を知るには現場にいるのが一番、と私は10月9日にジョグジャカルタに戻るとすぐにアーティストの友人にこのゴシップについて聞いた(それまでのメーリングリストからの情報で、作家本人はかなり傷ついているとあったので、本人に連絡するのは避けた)。数人の友人から得た詳細はこうだった。
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このモデルの男性、実は今売れっ子の男優アンジャスマラ。実は私もファンの一人だ。女性は売り出し中のグラビアモデル。この男優がいけなかった・・・。インドネシアにも「3時のあなた」的なワイド番組があって、毎日スターのゴシッップ・ネタを放送している。CPビエンナーレが始まって5日目、アンジャスマラのヌード姿もこの番組で取り上げられたのだった。ファンたちはおそらく喜んで展覧会場へ行ったことだろう。けれどこれに過剰反応したのがジャカルタにあるイスラム団体だった。
 「有名スターがポルノまがいなポーズ、けしからん」と彼を厳しく非難した。最初はアンジャスマラも堂々と  
「僕はアートに貢献しただけ。僕のしたことはポルノではなくアートだ」
と頑張っていたけれど、もともと彼は美術家ではなく大衆のアイドル、インドネシア大衆にポルノだと言われた日には、非を認めて謝っておいたほうが後々のイメージ回復にも得策だ。ということでチャッカリ謝ってしまった。これで調子にのったイスラム団体はこの作品を即刻取り払うよう要求。ここからの主催者側の対応が悪かった。  私は作家がどういう経緯でこの作品を作ったかよく知っているが、キュレーターも主催者側も作品内容に同意の上で展示しているのだから、出品作品に対するすべての責任はキュレーターを含む主催者側にあるべきだ。なのに彼らはこの団体を恐れて作家に知らせもせずに作品を閉鎖したのだった。広い展覧会場を仕切って作られたアグス・スワゲの作品はちょうど2つの入り口があったのだが、これが見事に「閉められ」、まるでその壁の向こうには何もありません、という格好になったのだった。

 実はこのイスラム団体、同じイスラム教徒たちが「イスラム教の名を利用したヤクザ」と評するちょっと危険な団体で、悪く言えば「ナンクセ」つけるのが仕事。かわいそうにアグスも悪い輩に目をつけられてしまったもんだ。考えてみればアンジャスマラというのが悪かった。売れた男優を使ったばかりに、それがワイドショーから一般大衆に知れるところとなり、今回のような大事に発展した。だってモデルの女性は何も批判されていないのだから。しかし、これが大事になるインドネシアはまだまだアートも発展途上だなとつくづく思う。 作家本人にはこのイスラム団体から脅迫電話までかかる始末(だから、これってやっぱり宗教団体じゃなくヤーサンなんだろう)、今後は裁判沙汰にまでなるかもしれないという話だ。
 今では、作家一人を守れない、自分の作った展覧会に責任も持てないということで、アーティストの間ではCPビエンナーレを企画したキュレーターへ非難の目が向いている。インドネシア美術を牛耳ってきた重鎮のキュレーター生命もこれで終わりだという人も少なくない。ビエンナーレには重鎮以下、3名の副キュレーターがいたのに、アグスの作品閉鎖については、残りのキュレーターは何も知らされていなかったということで、重鎮はついにキュレーター仲間からも信頼を失ってしまった。

 インドネシアのアート界が一般大衆を巻き込んで騒々しくなってきた中で、私はといえば、それとはまったく関係なくアンジャスマラの肉体の美しさにあらためて惚れ惚れしている。展覧会初日に出向いて、自らアグス・スワゲのこの作品を撮影しておいてよかったなー、いつかはプレミアムものかもなー、とも思うのだった。
by midoriart | 2005-10-02 23:41 | Art